アマプラで配信していた生田斗真主演の「人間失格」が、2022年6月17日で配信終了すると知る。
剛くんが出演していたのは公開当時から知っていたが、なんとなく食指が動かず映画自体観ていなかったのだ。配信ならば鑑賞ハードルが下がるので急遽観ることとした。
剛くんの出番は少ないが、印象的なシーンが多かったので記録として感想を残す。
※ちなみに私は文学に疎いため、原作未読なうえ、太宰治や中原中也のこともこの記事を書くまではあまり知らなかった。
映画「人間失格」
作品情報
公開日 | 2010年2月20日 |
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配給 | 角川映画 |
上映時間 | 134分 |
監督 | 荒戸源次郎 |
原作 | 太宰治「人間失格」 |
キャスト ※敬称略 | 生田斗真、伊勢谷友介、森田剛、寺島しのぶ、石原さとみ、坂井真紀、小池栄子、室井滋、大楠道代、三田佳子 |
剛くんの役どころ
「汚れつちまつた悲しみに…」などで知られる天才詩人・中原中也役。
原作の「人間失格」には登場しない、映画オリジナルの登場人物である。
だが実際、太宰治と中原中也は交流があったとされ、酒の席での数々の逸話がある。
映画の感想
原作未読でストーリーを全然知らなかったのだが、1回観終わった直後の感想は「しょーもな…」だった。
酒に女に薬に溺れ、堕ちていく死にたがりな葉蔵のしょーもない話だ。葉蔵に共感はできないし、正直この話の面白みを理解できなかった。。でも、配信は何度でも見返すことができる。2回見返してみたときは、まぁそれなりに楽しめた気がする。
剛くん寄りな感想
中原中也登場シーンは4回。
- 0:15:15~0:17:28(2分)
- 0:54:01~0:59:04(5分)
- 1:08:59~1:09:01(回想1カット)
- 2:04:56~2:06:18(1分半)
134分のうち、トータル10分も満たない。回想を除けば主に3シーンだが、少ないシーンでも存在感は十分にあった。
原作に登場しないキャラクターなので当然オリジナルシーンしかないのだが、太宰治や他の文豪たちとの逸話を元にしているので、オリジナルだけどオリジナルじゃない不思議な感覚もある。
エピソードの出典などはこちらのレビュー記事に詳しくあるので参照されたし。それはそうとこの記事の書き出し最高だなww
ここからは各シーンの感想をつらつらと。
初対面で絡み酒
シーン序盤。主人公・葉蔵が悪友・堀木に誘われやってきたバーで、後からやってきた文豪仲間たちの中に中原中也がいた。
「なぁんだ堀木かよ…また新顔騙してんのか」
とけだるそうに入ってきたかと思えば、そのまま葉蔵の隣に座ってきた。
「おい青年、飲んでやる」
中也は葉蔵に対し青鯖が空に浮かんだような顔しやがってだの、バカ丁寧な言葉遣いが気に入らないだの、好きな花はなんだ、戦争は何色だなどと、閉口する葉蔵にやたらとまくしたてる「ザ・絡み酒」。非常にめんどくさい。。
見かねた檀一雄が帰ろうと促すも、聞く耳持たずで掴みかかる。しかし喧嘩は強くないのか、あっという間に背負投げされてしまい、天を仰ぎながら「おめーはつえーよ…」と呟く。そんな光景を黙って見ている葉蔵。
次のシーンでは、酔いつぶれた葉蔵が帰り道で「何が天才詩人だ」「アル中で乱暴なだけのちんちくりん」などと中也の悪口を言っていたw
こんな風に、初対面の印象は最悪だ。実際、中原中也は相当酒癖の悪いことで有名だったそうで、その辺を盛り込んだのがこのシーンのようだ。
古書店で再会
絡み酒のシーンから30分以上後に再び中原中也が登場。この時点で葉蔵はカフェの女給・常子と鎌倉で心中未遂事件を起こし、常子だけが死んで自分が生き残ってしまうというなんとも言えない状況にあった。
葉蔵が古書店で絵を換金していたところ、中原中也の詩集「山羊の歌」をたまたまみつけ手に取る。
すると詞の一遍を背後から読み上げる声がして、中也本人が現れる。
「作者本人に会って失望したかい?」「作者は作品よりも厄介だぜ」
前回の絡み酒から一転、今度はまともに話ができそうな雰囲気ではあるw
「道化の役は僕一人でいい。どうあっても君が道化の役が好きなら別だが」
なんか少し憂いを帯びた、含みのある感じ。家へ帰るという中也は、鎌倉まで付き合ってくれないか?と葉蔵に乞う。よりによって鎌倉なんだ…。。でも葉蔵はついていくことに。
2人は雫の滴るトンネルの下にいた。
「もう少しだけ生きたいんだ。頭の中に書きたいものが、こんなにたくさんあるのだから」
「しかし、今僕がここにいるのはとんでもない間違いで」
「ことによると僕という存在はもう、存在していないのかもしれないよ」
意味深な言葉を続ける中也。トンネルを見上げ、天井から滴る水滴を飲む。それは線香花火の落ちた火の粉のようになり、周りがパチパチと光りだす。なんとも不思議なシーン。ここの剛くんの表情がとても良い。儚い。
はらはら舞い散る海棠*1を見つめながら境内に座る2人。
「千里眼なんですね、中原さんは」
「ああ。ボーヨー、ボーヨー」
「ボーヨーってなんですか」
「前途茫洋さ。ああ…茫洋茫洋…」
茫洋とは「広くて見当のつかないさま」という意味らしい。「前途洋々」の逆なのだろうか?
回想
その後、バーで中也の死を知る葉蔵。一瞬だけ、トンネルで見せた中也の表情が映る。
葉蔵はあのトンネルへ行き、中也に線香を上げる。
「中原さん。酒は喜劇、ウイスキーは悲劇だよ」
雫の音が大きくなる。
中原中也は30歳の若さで病死するが、その晩年を過ごした地がこの鎌倉だと言われている。長男を亡くし、心身を病み入院。退院して鎌倉に引っ越したとあるので、葉蔵が出会った中也はおそらくその時期の彼なのだろう(まぁ映画オリジナルなので、映画の中也の背景が史実通りとは限らないのだが)。
列車の中で
ここでもう中也の出番は終わりかと思われたが、ラスト付近にもう一回あった。
酒に女に薬にと溺れに溺れてどうしようもなくなった葉蔵は、青森で鉄とともに暮らし始め、さながら擬似親子のような母の愛に包まれていた。
しかしある朝、葉蔵は1人東京へ向かう列車に乗る。車内では軍人たちが「日中戦争をやめさせないと日本は滅びる」などと緊迫した会話をしていた。
しかし次の瞬間、向かいに座る過去の自分の姿を見たと思えば…
「ボーヨー、ボーヨー」
車内を練り歩く中也と堀木。枝木を担いでいる。
「中原さん、ボーヨーってなんですか」「前途茫洋さ、茫洋茫洋」
たちまち車内はこれまで葉蔵が関わった人物で埋め尽くされる。皿いっぱいのそら豆を持って語す良子、モルヒネを手渡す寿、葉蔵をかばう鉄*2、そして相変わらず金の無心をしてくる堀木。
葉蔵の脳内再現なのだろう。先程までの緊迫した雰囲気から一転して、ガヤガヤと騒がしい。
中也の「あー…茫洋茫洋…」という声だけが聞こえ、葉蔵が席に座って虚空を見つめる。
そして葉蔵は太平洋戦争開戦の報を聞いて、物語は幕を閉じる。
まとめ
中原中也のシーンはそれほど多くないにもかかわらず、すごく印象に残るものだった。
出会いこそああだったけど、葉蔵にとって中原中也は大きな存在になっていったのかもしれない。ウザ絡みするちんちくりんからどこか儚げで憂いを帯びたさままで、剛くんの演技が光っていた。