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時空の歪みに身を委ね:映画「白鍵と黒鍵の間に」感想(ネタバレあり)

初週の日曜日に鑑賞

「白鍵と黒鍵の間に」を鑑賞。なかなか一言で感想を言うのは難しいのだが、観たあと余韻がじわじわくる感じだった。

映画「白鍵と黒鍵の間に」

作品情報

公開日2023年10月6日
配給東京テアトル
監督冨永昌敬
脚本冨永昌敬 高橋知由
キャスト
※敬称略
池松壮亮
仲里依紗 森田剛
クリスタル・ケイ 松丸契 川瀬陽太
杉山ひこひこ 中山来未 福津健創 日高ボブ美
佐野史郎 洞口依子 松尾貴史/高橋和也
原作南博「白鍵と黒鍵の間に」(小学館文庫刊)
公式サイト映画『白鍵と黒鍵の間に』オフィシャルサイト

ジャズミュージシャン南博氏の自伝的エッセイを、大胆にアレンジした本作。原作の3年間に渡る内容を、「南」と「博」という2人の登場人物が織りなす一晩の出来事として描く手法をとる。

剛くんの役どころ

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剛くん演じる謎の男「あいつ」は、映画オリジナルのキャラクター。刑務所から出てきたばかりで、なぜか南と博に絡んでくる存在。

余談だが、Xでポスタービジュアルが公開された日はよりによって健くんの誕生日だった。

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▼池松さんとの対談。


▼池松さんとのインタビュー。

tokion.jp

eiga.com

▼池松さん、監督とのインタビュー

www.pintscope.com

▼監督インタビュー。本来はあったという「あいつ」の本名にも言及している。

cinemore.jp

衣装展示とコラボドリンク

また、本作はキャスト衣装を複数会場で展示している。"あいつ"の衣装は2種類あり、通常のものがシネ・リーブル池袋、血付きのものが109シネマズ川崎で展示されている。

"あいつ"の衣装とキャラクターポスター

シネ・リーブル池袋は入ってすぐのところに飾られていた。館内もいたるところに本作の装飾がなされていた。

トイレへ続く通路にも大きなポスターが

コラボドリンクもある

一部上映館ではコラボドリンクも販売している。アマレットとジンジャーエールのノンアルコールカクテル「南と博の"あの曲"」。ポップコーンとともに購入し、昭和の雰囲気を感じるなどした。

ポップコーンとノンアルコールカクテル”あの曲”

作品の感想(ネタバレ注意)

一人二役、時空が交わる構成

池松さんが一人二役で演じる「南」と「博」。これは二役と言いつつも同じ「南博」という人物を表していて、博の3年後の姿が南だとラストで明かされる構成になっている。

しかし別の時間軸であるにもかかわらず、同じ銀座の街で入れ違いになったり、南の代打として博が駆り出されたりと、まるで別々の2人がいるかのような演出が随所に見られる。大学時代の先輩である千香子の振る舞いからなんとなく南=博なんだろうなぁと思いながら見るものの、博視点の場面と南視点の場面が代わる代わる出てくるので別人感もあり、不思議な印象だった。

不思議さの要因の一つは間違いなく"あいつ"の存在にある。キャバレーで仮面をつけ演奏する博に話しかけてくる最初の場面、やたら音楽に詳しく、博にとってキャバレーの酔客よりかなりまともな存在に映っただろう。しかしその後もクラブで演奏する博を偶然みつけ突撃し、追いかけ回してなぜか二人三脚までさせたかと思えばズボンがずり落ちる。博が仮面の男は自分ではなく南だとうそぶくことで、今度は南に矛先が向けられてしまう。彼はなぜ10年も刑務所にいたのか、なぜ執拗に「ゴッドファーザー 愛のテーマ」を聞きたがるのか、その辺は語られないのでさらに不思議みが増している。

多幸感あるジャズセッション

印象に残ったのはやはり、クライマックス付近のジャズセッションシーン。あそこは音楽映画らしいというか、とてもほっこりした。

ピアノを極めるべく師の言葉に従ってキャバレーで演奏する博だが、だいぶ思ってたのと違った。そんな矢先に"あいつ"のリクエストであの曲を弾いてしまい、逃げるようにキャバレーを飛び出した博。一方南のいるクラブでは、アメリカ人ジャズシンガー・リサが自分の歌を全く聞かない酔客たちにウンザリしていた。

キャバレーやクラブの客にとって、演奏者の演奏はBGMにすぎない。博はそこにモヤモヤし、南はそういうものだよとリサに説明する。同じ業界に3年も身を置けば、良くも悪くもすっかり染まってしまう。これは南と博に限らず、自分にも思い当たる節がある。

登場人物のほとんどが演奏者側なので、演奏者の悲哀やモヤモヤを感じる場面がちらほらあって、演奏者も大変だなぁと素人ながら思った。

モヤモヤしている南が路上でサックスを吹くK助と出会うシーン。K助はかつて博とともにキャバレーにいたサックス奏者だ。南は近くのごみ捨て場に置き去りにされているアップライトピアノに手を伸ばし、K助との即興セッションを通して音楽の楽しさを思い出す。

その後、千香子やリサの協力で海外留学に必要なデモテープ録音を店内でし始める。忘年会の予定よりも早く始まった演奏、南のピアノに乗せて満足そうに歌うリサ、店の入口にいたK助も飛び入りでサックスを奏で、気がつけば皆が楽しそうに曲を奏でていた。周りの客も釘付けになっている。これまでのモヤモヤが吹っ切れるような、多幸感あふれるシーンだった。

しかし、このひとときが長く続かないことはわかっていた。博から情報を得た"あいつ"が、じわじわとこの店に向かっていることを我々観客は知っている。そしてデモテープ録音をしていることを知らず、気持ちよくなった会長が突然ズンドコ節を歌いだして空気が変わる。それでも歌に合わせて合いの手を入れる南が優しいw

ラスト数分間の怒涛の展開

そうするうちに、とうとう"あいつ"がやってきてしまった。すごくタイミングが悪い…

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正直、ここからの超展開は一度観ただけではよくわからなかった。血で血を洗う諍い。会長と"あいつ"の板挟みになった南がめちゃくちゃとばっちりを受けていた。。そしてデモテープを録ったでっかいラジカセが凶器へと変わる無念…。

銀座を牛耳る会長に総力を上げてもてなしていたあのときが嘘のように、「もういいや」と言ってバンマス三木(だよね??)が2人を殺してしまう。その場にいた者たちが、まるでちり紙をゴミ箱に投げ捨てるかのように2人の遺体をビルの谷間に放り投げる。

気絶した南が目を覚ますと現実か夢か、この世かあの世かもわからないようなビルの谷間のごみ溜めにいて、死んだはずの2人が南に語りかけ、かと思えば浮浪者のような出で立ちの博(だよね??)と対峙する。あのくだりはもう一度見てみてもたぶん理解できないかもしれない。あそこが「白鍵と黒鍵の間」なのだろうか?演劇的な、抽象的な表現で描かれていて難しかったが、ここで過去の自分と現在の自分が現状を打破するような感じを受けた。母親に探してもらっていた母子手帳も無事みつかり、ボストンへ行く光が見えたのかもしれない。

ラストはクラブで期待を胸にする博のカットで終わる(だよね??)。「南博」という名前が見え、南と博が同一人物であることが示唆される。最後は明るかっただけに、直前までの超展開はすごく不思議な印象だった。

その他

  • 題字の出方がすごく良い。冒頭からずっと映される雑然とした暗い地面に白文字だけが浮き出たかと思えば、街の風景に移って黒い文字も見えるようになる。

  • ピアノレッスンでも、キャバレーでもクラブでも、とにかくどこでもタバコの煙がもくもくしている。昭和って感じがする。煙がスモーク的な演出も兼ねているようにも見える。

  • 母子手帳みつからないから臍の緒持ってきた、ってww

  • ずっと忘年会の挨拶練習してる人がじわじわきたw

  • "あいつ"はなんで10年も刑務所にいたんだろう。「あいつが出所してるぞ」と店同士で連絡取り合ったり、"あいつ"の姿を見た警備員が無線で連絡したり、よほどやばいことやらかして出禁に近い扱いを受けたのだろうか。

  • 劇中では「ノンシャラント」という表現がされるが、フランス語的には末尾の「ト」は読まないのでは?と見ててちょっとモヤッた。でも英語で読むとそうなのかな…と自己解決。

まとめ

やっぱり、この作品の感想を一言で言うのが難しい。

一人二役(二人一役)の描き方は面白かったし、ジャズ音楽でセッションをするシーンはとてもよかったし、最後は演劇的な超展開でたまげた。しかし時空の歪みを認識しながらそれに身を委ねて見るのもなかなか面白く感じた。

ただ、結構人を選びそうな作品かな、とも思った。